カーテンを閉めきった部屋で、長時間、DAWソフトの画面を見ている。
去年ほどではないとはいえ、外は灼熱。高湿度。
エアコンのうなる音と、同じ8小節のループだけが鳴っている。
気づくと日が暮れていて(いや、朝だったり)、今日という日にほとんど心当たりがない。
今、2曲を同時に進めている。
ひとつは、「Sweetie,Sweetie」をエレクトロニカ風味にした曲。
2020年に配信リリースした時、実はもう1パターンも完成していた。
せっかくなので、そちらにさらに1手間加えて作り直している。
もうひとつは、まったくの新曲。
タイトルはまだ伏せておく。
制作は、作っては壊しての繰り返しだ。
録って、並べて、切って、貼って、また元に戻す。
音は、なるべく足したくない。
スカスカになるギリギリのところで、手を止めるようにしている。
極端な話、4トラックくらいでもいい。
そう思ってやっているのだけれど、
ふと我に返って、これはただ寂しいだけの、独りよがりなダサいものになっていないか、と心配になる。
心配しながら、また切って、貼る。
新曲のほうは、ギタリストの方に音源をお渡しして、弾いていただいた。
そこで、指摘された。
ギターはベースラインに沿って弾いてくださったそうなのだが、
コード進行の理論から見ると、そこから外れている箇所がいくつかある、と。
ただ、その外れているところが、この曲の特徴になっていると感じます、と。
まったく気づいていなかった。
音楽的な理屈がどうなっているかなんて、考えたこともなかった。
ついでに、私が書いて渡したコード譜も間違っていた。
自分で作った曲の、自分で書いた譜面が、である。
そういうレベルの素人なところが、私にはずいぶんある。
10年以上活動してきて、いまだにそうだ。
恥ずかしいというより、もう笑ってしまう。
ある部分の知性が低い、というか。
それでも、ギタリストの方はそれを面白いと言ってくださり、
むしろその曲の癖を持ち味として立たせるように弾いてくれた。
自分の欠陥みたいなものが、誰かの手を通ると、個性になって返ってくる。
うれしいのと、少し情けないのと、両方だった。
だから今は、慎重になっている。
これから料理していくわけだけれど、味付けで台なしにしたくない。
迷ったら、まずギターだけで鳴らしてみる。
それで成立しているなら、私が付け足そうとしていたものは、たぶん要らない。
さらに、細かいところで、毎回つまずく。
たとえばEQ。
バンドを足すたび、Qの値を0.71に直さないといけない。
毎回だ。何度やっても、たまに忘れる。
この数字を、この夏、何回打ち込んだかわからない。
たぶん、今年いちばん多く目にした数字だ。
数値の根拠は、正直よくわかっていない。
先日は、どのトラックも音が妙にこもるので原因を探っていたら、
Channel EQが二重に挿さっていた。ほぼ全部のトラックで。
自分で挿しておいて、自分で「おかしいな」と首をひねっていたわけだ。
気づいた瞬間の、あの気の抜けかた。
クラッシュにも泣かされた。
勇気を出して買った、安くない最新のプラグイン。
それを入れた日から、DAWが落ちるようになった。
アンインストーラーでは消えてくれず、
結局、システムの奥のフォルダまで潜って、ファイルを引きずり出して捨てた。
音楽を作っているというより、パソコンの掃除をしている時間のほうが長い日もある。
便利なものほど、なぜかうちのMacbookとは相性が悪い。
歌のタイミングを揃える時も、揃えすぎないようにしている。
ぴったり合わせると確かに気持ちいいけれど、少しルーズなくらいで止めておきたい。
下手なところを残す、というのとは少し違う。
息をしている感じを消さない、という話だ。
昨日取り組んだのは、「Sweetie,Sweetie」のパンニング。
リードは真ん中。コーラスは、左右に少しずつ散らす。
20か、30か。数字にすると笑ってしまうくらい些細な差だ。
でも、そのつまみを2ミリ動かすだけで、
部屋の広さが変わる。人の立ち位置が変わる。
そこにいるのが1人なのか、2人なのかが変わる。
1日かけて進んだのは、それだけ。
誰に急かされているわけでもないし、締め切りもない。
だから、放っておけばいくらでも手は止まる。
ここ数年、そうやって消えていった曲をたくさん見送ってきた。
それでも今は、0.71と、二重に挿さったEQと、
落ちるプラグインと格闘しながら、なんとか手を動かしている。
いただいたギタートラックを、宙ぶらりんのままにしておくわけにもいかない。
人の手が入ると、途端に、勝手には止まれなくなる。
華やかな話はひとつもない。
けれど、この地味な往復こそが、曲を作るということなのだと思う。
去年の今頃の、死んだ目をしていた自分に比べると、奇跡だ。
でも、波があるから、どうなるかわからない。
太宰治の「トカトントン」、あの音が聴こえてきたら、ダメだ。
すべてがダメになる。
…とはいえ、今作っている曲は、もう少しで、聴いてもらえる形になる。
手作りの防音室。なかなかよくできた。
ただ、真夏はただのサウナ室になるので、レコーディングはお休みせざるを得ない。







